円朝芝居噺 夫婦幽霊
辻原 登菊地 信義 講談社

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価格:¥ 1,785
発売日:2007-03-21 /通常24時間以内に発送
カスタマーレビュー
おすすめ度:
湘南ダディは読みました。 
(2007-08-24)
本格的な小説の味わいと文学史を舞台とした知的な謎解きに加え、円朝の落語まで楽しめるという贅沢な作品です。 辻原登が「黒髪」という作品に登場させた橘菊彦の遺品が大阪の古書店で見つかったという親戚からの知らせで、作者がその釜利谷書店にいってみると3,4百枚麻紐でくくられたザラ紙の束が見つかります。という出だしから読者は、この話はドキュメンタリーなのかという迷いをもちながら作者の虚実ないまぜの仕掛けの中に引き込まれていきます。
このザラ紙束はなんと三遊亭円朝の未発表の芝居噺、夫婦幽霊の速記録だったのです。
そのような訳で本作は途中から、「円朝にござります」で始まる、5席連続の口演、夫婦幽霊となります。ここの部分は円朝の口演(口演の速記を再現)を聴く形式となっていますので、口座をつとめる名人円朝の仕草や声音が目に浮かび耳に聞こえるような出来栄えです。
作品中でこの連続口演がおわりますと詳しい訳者後記がありまして、ここで作者はもう一度、読者に謎掛けをします。解読をした速記記号の中に円朝存命中(明治33年没)には在った筈のない速記記号が含まれているというのです。そして作者はこの夫婦幽霊は関東大震災後行方が杳としてしれない円朝の一人息子、朝太郎と芥川龍之介による偽書ではないかと推定をするのです。
たしかに円朝の口演は速記を基に新聞連載をされ人気を博したといわれていますので晩年の円朝素材の速記録が未発表のまま存在することはいかにもありそうですが、このように読者を虚実皮膜の間に張り回らした三重四重のトリックの中に迷い込ませることこそ実は作者の狙いであったのではないでしょうか。各章末にぺダンチックな注記を挿入していかにもと読者に納得させる芸の細かさ、まったく辻原登さんは怪しからん人です。(ロングバージョンのレビューは http://shonan.qlep.com/のレジャー→エンタメでどうぞ)
円朝作としては、物足りない・・・。 
(2007-08-16)
肝心の円朝作とされる夫婦幽霊が、なにやら宮部みゆきの時代もの推理小説のようで(それなりに面白いということではあります。でも円朝やら芥川の名前を持ち出されると???という感じです。)、しかも短編といってもいいようなボリュームではどうにも物足りない。この物足りなさを補うためか、夫婦幽霊の前と後ろに、この円朝作と目される速記を読み解く現代の話がくっついている。構成としては凝ったつもりなのでしょうが、あまり面白いとは思えなかった。この構成自体を面白がることはできるのかもしれませんが・・・。
非常に上手い構成の洒落た作品 
(2007-06-15)
実に上手く構成された素晴らしい作品です。
たまたま見つかった明治期の速記本。これを解読してゆくところからこの本は始まります。
そして、円朝の未だ見つかっていない作品が現れます。その作品がこの本の中心となっているのですが、序盤を読んでいると、本当に円朝の新たな作品が見つかったのかと思えてきます。後半になって、何となく近代的過ぎるなと感じてきます。
それにしても、「注」の入れ方一つとっても、全く新たな作品の発見を感じさせてくれます。
「訳者後記」で種明かしをするのですが、円朝の息子朝太郎と芥川龍之介の合作というのも、本当なのかなと疑心暗鬼にさせられます。
作者の作家としてのセンスの光った作品でした。
落語を聞く楽しみがひとつ増えたかも 
(2007-05-24)
芥川と円朝の息子、朝太郎による共同作業ってシナリオ。
「円朝をやりなさるんならセオリィ(理論)だけはいけません。ぜひロマンス(物語)をおやりなさい。それもうんと長尺ものをね」って言葉が、「群像」連載にはなかった“訳者後記”っていう書き下ろし部分に出てくるんだけど(“この単行本だけの種明かし”って企みにも思わず唸る)、それこそが文学であり、しかも、まさにこの「円朝芝居噺 夫婦幽霊」は、理論+物語しかも長尺ってのに120%適った作品になっているんだよなぁ。もう辻原登の力量っていうか円熟ぶりはすごい。全体構成のメタメタな仕掛けとか、注記部分に組み込まれた質の高いお遊びとか、カギ括弧、手紙、速記、口述といったディテールをめぐる文学論とか、本当に楽しめるよなぁ。丸谷才一的でもあるけれど、キレ味が鋭い。しかし、「語り」っていう、常に揺らぐ、語るたびに違う、あるいは客を前にしたインタラクティブ性ってのは古くて新しい可能性だよな。円朝は噺家って概念を突き抜けていて、読み始めた時、これ、今の噺家だったら誰がやれるだろうなんて思いながら読み進めたんだけど、この豊穣な物語、今出来る人いないね。語り部としての力量もあり、時事性もあり、人間の業が表現できて、艶っぽさも出せて......いないよなぁ。意外に小沢昭一あたりかもしれないけど、それじゃつまんないよなぁ。でもこれで落語を聞く楽しみがひとつ増えたかも。生きている間に「夫婦幽霊」を語れる人が出てくるかどうか?っていうね。ほんと、「夫婦幽霊」をナマの語りで聞いてみたい。